南伊豆のジビエ探訪記

伊豆半島の最南端の南伊豆町でうまいもんと言えば第一に海の幸が出てきます。伊豆七島の利島周辺で獲れる地金目鯛(ジキンメ)、神子元島周辺で獲れるタカベ、石廊崎沖のスルメイカ、銀ムツ、南伊豆沿岸の地浦の伊勢海老、アワビ、サザエ、岩のり、ヒジキ、、、etc.

南伊豆の地金目鯛(ジキンメ)

南伊豆特産の地金目鯛(ジキンメ)

そして、伊豆半島ジオパークは海底火山が隆起して本州にぶつかってできた土地なので、山々がいきなり深い海に落ち込んでいるいるような地形で、特に南伊豆は天城山系の山々の南端にあたり、回りを山里に囲まれていることも大きな地理的特徴です。

つまり、南伊豆は豊富な山の幸にも囲まれているということです。例えば、南伊豆では春になると20種類以上の野草が道の駅売店で販売されます。

南伊豆の野草の天ぷら

南伊豆の野草の天ぷら

タラの芽、もみじがさ、よもぎ、わらび、ウドの葉、イタドリ、雪の下、明日葉、オオバコ、こごみ、ツルナ、ウバユリ、ジュウモンジシダ、ハマダイコン、ボタンボウフウ、ウワバミソウ、モミジガサ、ノビル、ツワブキ、オカヒジキ、ツルナ、ヤブレガサ、、、etc

そして、その野草や木の実や果実を食べて山々を駆け回っている猪や鹿も冬の狩猟シーズンが始まるとあちこちで狩猟され道の駅など各所で販売されます。

私は南伊豆に移住して23年になりますが、これまで地元の猪鹿ジビエを食べる機会がほとんどありませんでしたが、つい最近、ご町内の猟師さんから分けて頂いた猪ロースですき焼きを作り、私のジビエ感が一変しました。

 

ジビエ猪すき焼き

猪すき焼き

上の写真で分かるように猪ロース肉は脂身の部分が多く見た目には「ちょっと・・・」という第一印象がありますが、すき焼きで食べてみると牛肉のような脂っこさはなくとてもあっさり味の軽い脂身でした。

そしてその食味や香りは野生の滋味深さを感じとてもおいしい!

ぜんぜん臭みも無く柔らかい!

こんなにおいしいのか!とても感動でした、このすき焼きが南伊豆ジビエに出逢ったきっかけでした。

こんな食材が身近にあるのに南伊豆に20年住んでまったく気がつきませんでした。なんでこんなおいしい食材を南伊豆は「売り」にしないんだろう?間違いなく地域興しに貢献すると思うけど。

そんなところから南伊豆ジビエをもっと知りたくなって私のジビエ探訪が始まりました。そして調べれば調べるほど奥深い分野であることが分かってきました。

まず、その背景として、南伊豆の農業従事者にとっての一番の問題は猪鹿の鳥獣被害である、ということを知っておく必要があります。

最近、猪や鹿が山を降りて住居エリアまで出没することが多くなりました。弓ヶ浜前の当コテージ周辺の宿泊街でも2mを超える巨大な猪に遭遇したことが何度もあります。

地元のおじいちゃん、おばあちゃんの話では、昔は猪や鹿なんて家の周辺でまず見たことが無いとのこと。こうやって人間エリアに出没するようになったのはつい最近の現象のようです。

その出没理由は良く分かりませんが、つまるところ山中のエサ食材が減少しているのか、または何らかの理由で猪鹿の個体数が増加しているのか、そんなところでしょうか。

私の友人にも自然農法などの篤農家が数人いますが、彼らが精魂傾けて育成した農作物を食い荒らす話を聞いてなんともやりきれない思いに同感することもしばしばありました。

そのため、南伊豆町を始め静岡県や国も鳥獣被害対策として猪鹿の駆除に補助金を出しています。

狩猟方法には銃猟と罠猟があってそれぞれ資格も異なりますが、銃猟師の中には1シーズンで数十匹も仕留める人もいるそうです。

しかし、その割には南伊豆周辺でも猪肉や鹿肉のジビエ肉がどこでも安価で手に入るという現状ではありません。ご町内でもごく限られた販売ルートしかありません。値段も1kg3,000円~5,000円程度で庶民のお手頃価格とは言えません。むしろ高級肉に近いかも。

シーズン中にかなりたくさんの猪鹿が狩猟されているのに一体その肉はどこへ行ってるの?

ご町内の農家さんの話では狩猟されてもそのまま土に埋められてしまうケースが多々あるとのこと。生きとし生ける生命が殺戮されゴミのように捨てられている・・・。

うーん、それでいいのかな?でも農家さんにとっても間違いなく死活問題だし、本当に考えさせられます。

狩猟された猪鹿たちが、せめて人間にとってありがいたい食材になって貢献していれば、その殺生もある意味意義ある行為と思えるでしょう。

この現状をもっと明るく楽しい流れに変えることはできないだろうか?

狩猟された猪鹿たちがすべて丁寧に精肉され、流通され、販売され、一人でも多くの人たちに食べてもらって喜ばれている、そんな南伊豆ジビエの流れができたらいいかな。

これが私の南伊豆ジビエに対する想いです。

それでまず猪鹿のジビエレシピをもっと探って行きたいと思い、ご町内で評判のイタリアンレストラン「ダイニング池田」のご主人にジビエ西欧事情を聞きに行きました。

ご主人によれば、イタリアをはじめヨーロッパでは、ごく日常的にジビエが食されていて、もっと手頃で身近な食材であり料理であるということでした。

一件は百聞に如かず・・・

ご主人にお願いして、特別にイタリアンジビエを実際に作っていただき私たち夫婦二人への試食会を開いてくれました。

妻は肉好きですがジビエに対しては「堅い」「臭い」の一般的なイメージを強く持っていたので一般人を代表するちょうどいい試食会となりました。

 

【1】まず一品目は、「鹿のカルパッチョサワークリーム」。表面だけ焼色をつけた鹿ロースにサワークリームをかけ、アクセントにポン酢ジュレ。

鹿のカルパッチョサワークリー厶

鹿のカルパッチョサワークリー厶

最初の皿は鹿の背ロースのレシピ。試食した妻の感想は、ええ~鹿肉ってこんな柔らかいの?臭くない!おいしい!

私も見た目がちょっと半生っぽいのでちょっとビビりましたが、舌にのせるとなんとも柔らかい食感で、味も家畜肉とはまったく違う野性味あふれる上品な味で思わず「うまいっ!」と叫んでしまいました。

今回は西欧風にサワークリームでしたが、たぶんこれって天城の生わさび+ポン酢でやっても十分にいけると思いました。

そういえば、以前、鹿肉を分けて頂いた猟師の方にbestレシピを尋ねたところ、「昔はね、猟師は刺身で食べていたよ、鹿は刺身が一番うまいんだ、だけど今は生食禁止という保健所からの指導でそれができなくなった、だから表面だけ焼いたローストがいいとおもうよ」

イタリアンシェフと猟師の意見がここで見事に一致していました。

 

【2】猪と地野菜ペペロンチーノ ガーリックマリネした猪ロースと地野菜を       
  ソテーし、ペペロンチーノと絡める。

猪と地野菜ペペロンチーノ

猪と地野菜ペペロンチーノ

次は猪ロースのレシピです。肉片がかなり大きな塊でしたが柔らかく美味しくガーリック風味のペペロンチーノにバッチリ融合してとてもおいしいパスタに仕上がっていました。

パスタ好きの妻も思わず「おいしい!」と声を出して感動していました。

猪のパスタがこんなにおいしいとは二人ともちょっと驚きでした。

 

【3】鹿のカレーソース クスクス添え ヨーグルトでマリネした鹿ロースと、世界最小のパスタクスクスのカレー掛けのコンビ

鹿のカレーソース クスクス添え

鹿のカレーソース クスクス添え

3番目は、鹿の背ロースレシピ。ヨーグルトでマリネされた鹿肉はちょっと酸味が入りさらに柔らかくなっていました。それをカレーソースをかけたサフランライスの上にトッピングしてサーブされました。カレー風味と鹿肉が良く合い二人にはかなりボリューミーな一品でした。

 

【4】猪の香草パン粉焼き イタリアンの伝統コトレッタミラネーゼ(仔牛
  のカツレツ)へのオマージュ。

猪の香草パン粉焼き

猪の香草パン粉焼き

4番目は、猪ロースのカツレツ。猪肉をたたいて薄くしてカツレツにしたもの。長時間かけて下処理されていて食べやすく、猪肉の滋味溢れる味わいとジューシーな食感が衣に包まれていて、赤ワインのおともに最高でした。

 

【5】鹿の低温調理ロースト パートブリック包み 鹿肉とチーズをパートブリックという薄いシートで包んで焼き上げる

 

鹿の低温調理ロースト パートブリック包み

鹿の低温調理ロースト パートブリック包み

5番目は ” The 鹿ロースト ” という感じの料理。時間をかけた低温調理方法だから、ほどよく生肉に近い感じで提供されていて、柔らかく滋味深くおいしい一品でした。

 

【6】猪の長時間赤ワイン煮込み 西欧ジビエ料理の真骨頂コトコト煮込んだ定番料理

猪の長時間赤ワイン煮込み

猪の長時間赤ワイン煮込み

最後の料理は猪ロースの大きめの肉片を赤ワインで長時間煮込んだ猪シチュー。コトコト長時間煮込んでいるので肉も柔らかく、まさにイタリアンジビエ定番の一品でした。

以上のジビエメニューはイタリアンレストラン「ダイニング池田」のご主人が、私たちの西欧ジビエ探訪のリクエストに特別に提供してくれた貴重なジビエ探訪メニューです。

なので通常のレストランメニューにはありませんのでご注文はお控え願います。

 

さて、猪のすき焼きで開眼した私の南伊豆ジビエ探訪ですが、まだまだ他にもジビエレシピがありそうです。

宝探しをするようにこれからも南伊豆ジビエの探訪を続けて行きたいと思っています。

お宝ジビエと出逢ったらまたここに掲載させて頂きます。

それでは。